ぼくは、これからもがんばります。

サンタさんは、やっぱり、いた!
小学生になると、サンタなんていない!と言う子どもが多くなる。「サンタいる派」の子どもたちは、「いない派」たちの発言に衝撃を受け、意気消沈。そこで、毎年開催されるクリスマス会ではキッズコーチがサンタに扮してプレゼントを渡していたが、少し趣向を凝らすことに…。 プルルルル!クリスマス会当日、電話が鳴った。「もしもし。え、サンタさん!?」と私が出ると、ケーキを食べていた子どもたちの口がピタッと止まり、電話の会話に耳を澄ます。「入り口にプレゼント?」入り口に行くと、大きな白い袋が置いてある。「ありがとうございます!」子どもたちに、「サンタさんに何か質問がある人は?」と聞くと、目をキラキラさせて「あなたはフィンランドのサンタですか?カナダですか?」最後は、子どもたち全員で電話に向かって「サンタさん、サンキュー!」とお礼を。 その後は、「ここに来てほしかったよね」「煙突なかったから?」「今夜は忙しいんだ!」と例年以上の大盛り上がり。「ねっ、いるでしょ?」と聞くと、それまで「いない派」だった子どもたちも笑顔で「いるに決まってるよ!」さて、問題は今年だ。どうやってサンタが現れるストーリーにするか? 私たちキッズコーチはいま、思案のまっ最中である。
反抗期キャプテン、奇跡の大逆転劇。
たくやくんは3年生になった頃から、反抗期に入ってしまった。学校では、友だちに手を出したり、物を壊したり。そんなとき、KBCすべての店舗が集まり、『ドッチビー大会』が開催された。我がチームのキャプテンにはなんと、反抗期のたくやくんが自ら立候補。その日から、たくやくんが大変身する。練習では声を出して、みんなを引っ張っていく。チームまでも結束が固まって大変身していったのだ。 大会当日。練習の成果を発揮し、見事に決勝進出!決勝戦の相手は昨年の優勝チーム。開始早々、どんどん当てられてしまい大ピンチに。しかし、キャプテンは違った。さらに声を出し、仲間を励ます。1年生には、「俺の後ろに隠れろ!守ってやる!」と男前発言。それからチーム一丸となって、じりじりと劣勢を挽回。終了10秒前。リードされたままだが、それでも諦めない。3秒前。ついに同点、追いついた。 ピッピーッ。終了の笛。…の直前に、一人倒して、なんと大逆転優勝!たくやくんのキャプテンシーが奇跡を起こしたのだ。 反抗期は誰しもが通る成長過程。だからこそ、そのエネルギーをどう、プラス方向に転換させるかが大事だと思っている。反抗期であってもたくやくんの心のやさしさは変わらないのだから。
恥ずかしがり屋君のプレゼント。
かなり恥ずかしがり屋のじゅん君。コマとけん玉が好きだと聞いて、僕らはその2つの遊びを一緒にすることで距離を縮めていった。コマとけん玉は得意ではなかったけど、じゅん君に教えてもらい、徐々に腕を上げた。それから、まるで二人三脚のように一緒に進歩していった。 だけど、二人三脚ができなくなった。4月に僕が異動することになった。じゅん君に、そのことを伝えると、「ふーん」と素っ気ない反応。でも、僕の最終日。じゅん君は来てくれた。お母さんのお迎えをKBCが閉まる22時ぎりぎりに頼んでくれ、最後の日を最後まで一緒に遊んだ。22時。いよいよ、お別れの時、「ありがとう」と言って、プレゼントを差し出すじゅん君。さっきまで元気に遊んでいたのに、恥ずかしがり屋のじゅん君に戻り、多くは語ってくれない。見かねたお母さんが教えてくれた。「このプレゼント、自分のお年玉で買ったんです。自分のお金でプレゼント買うのは、これが初めてなので、びっくりしました。選ぶのにもすごく時間をかけて」 いまでも、じゅん君からのプレゼントを見るたびに、技を競い合った時のことを思い出す。コマとけん玉をしたくなる。
涙でかすんだ招待状。
小学1年生のりこちゃんが、学校からKBCに帰ってくるなり、「これあげる」と「1枚の紙を差し出した。「これ何?」と聞くと、「招待状だよ」と満面の笑みを浮かべて抱きついてくる。 よくよく聞くと、学校の授業で運動会に呼びたい人へ「招待状」を書いたらしく、クラスメイトのほとんどは、お父さんとお母さんに書いたそうだ。私は思わず「お父さんとお母さんに渡さなくていいの?」と聞いてしまう。りこちゃんは、にっこり笑って、「お父さんとお母さんは、いつでも言えるから大丈夫。ひろひろ*に来てほしいから招待状を書いたの。」と言う。まだ、1か月しか一緒にいない私を、りこちゃんにとって運動会に来てほしいと招待してくれるくらい、たいせつな人だと思ってくれたことに、どうしようもなく、うれしくて…。 子どもの真っすぐな気持ちに泣かされてしまったキッズコーチは、私一人ではないと思う。 * ひろひろ=キッズコーチのあだ名。
キャンプ2日目のやったね、目標達成。
1年生のまきちゃんは自分の荷物が重いと、キッズコーチや友だちに持たせようとするし、疲れると機嫌が悪くなり、ものに当たる。そんな中で迎えたサマーキャンプは正直、心配だった。 サマーキャンプでは、グループを作り、子どもたち自身で「挨拶をきちんとする」「キッズコーチの話を聞く」など、次の日の目標を決める。まきちゃんのグループの1日目の目標のひとつに、「嫌いなものも食べる」があった。「でも、好き嫌いの多いまきちゃんは、夕食を残してしまい、グループ全員の達成とはならなかった。ところが2日目も、グループの友だちがまきちゃんに克服してほしいと相談し、また「嫌いな物を食べる」を目標にしたのだ。 前日、自分のせいで、グループの友だちに迷惑をかけたと責任を感じ、人が変わったかと思うほど、嫌いなはずの食材も残さず食べ、「全部食べたよ!」とうれしそうに、私たちキッズコーチに報告してきてくれた。グループの友だちの思いに応えたいと思う気持ちが、まきちゃんを変えたのだ。 キャンプから帰ってきても、見違えるほどジコチューな行動がなくなった。嫌いな食べ物もすっかりなくなった。サマーキャンプが、まきちゃんを変えた。
負けを認めるカリスマ少年。
5年生のこう君は、1年生の頃から通っているKBC雪谷の古株。 さらに、スポーツ万能、統率力もあり、後輩からも慕われるカリスマ的な存在だ。当然、プライドも高く、ドッチボールやゲームなどで負けたりすると不機嫌になることも。 ここ数か月、こう君は3年生のりょう君と、よく将棋をさすようになった。りょう君が1年生の頃、ルールを教えてあげたのが、こう君。その後、りょう君は将棋にはまり、めきめきと上達して、最近では、こう君が負かされてしまうこともある。将棋は負けた人が「負けました」というゲームだ。不機嫌になるか、りょう君と将棋をささなくなるかもと心配していた。しかし、こう君は悔しい気持ちをぐっとこらえて、「負けました。ありがとうございました」と挨拶をする。りょう君も勝ったからといって、「よっしゃー!」なんて喜ばず、相手にお礼をいって終わる。その後に、2人で対局を振り返り、「あの時、飛車をここにさせばよかったんだよ。」とりょう君にアドバイスを受けて、「そっか。失敗した!りょうは強いな!」と相手を称えている。 実際、「負けました」を言える子どもは多くない。負けを潔く受け止められるこう君にこそ、僕はカリスマ性を感じる。
涙から始まったなかよし姉妹。
4月に小学校に入学したばかりのあいちゃん。 これまでは保育園だったので気づかなかったけど、小学校に通い始め、世の中には会社勤めしていないお母さんがいることを知ってしまう。いったん知ってしまうと、お母さんが家にいないことの寂しさが募り募ってしまい、学校でも、KBCでも、泣いてばかり。僕らキッズコーチやお母さんが話してもなかなか気持ちが安定しなかった。 そんな泣いてばかりいるあいちゃんに話しかけ始めたのが、3年生のさくらちゃん。実は、さくらちゃんは、1年生の時、「KBCに行きたくない!」と大泣きしたり、友だちと喧嘩したり、あいちゃんとは違うが、環境の変化に慣れるまでに時間がかかった先輩なのだ。だからこそ、あいちゃんの気持ちがわかるのか、「一緒におやつ食べようよ!」「これで遊ばない?」「一緒に宿題しよう!」と何かと声をかけ続けるさくらちゃん。すると、声をかけられるにつれ、あいちゃんの泣く回数は次第に減っていき、笑う回数は日ごとに増えていった。 最近、さくらちゃんとあいちゃんの口癖やしぐさが似てきた。2人とも、一人っ子。今日も一緒に宿題に取り組んでいる。まるで、姉妹のように寄り添って。
きっかけは、突然に。
小学生と関わっていると、必ず聞く言葉がある。 それは、「宿題、ヤだーッ。」 キッズコーチとしては、宿題をするようにあの手この手を使って、取り組むように仕向けるのだが、本当は宿題をやりたくないという子どもたちの気持ちも分からなくもない。実は、僕だって、楽しいことばかりやっていたいと思っているから(笑)。 ユウジ君は、勉強があまり好きではない一年生の男の子。教科書を目の前にして、ぼ~っと座っていることが多く、宿題を終わらせるのに毎日ひと苦労。そんなある日、小学3年生のリョウ君がユウジ君に近づいて、ぽんっと国語辞典を机に置いた。そして丁寧に使い方を教え始めたのだ。あまりの丁寧さにユウジ君も説明を熱心に聞き始める。 その日からユウジ君は変わり始めた。自主的に宿題をやるようになってきた。それだけではなく、「これって役に立つんだよ」と、ともだちに辞書の使い方を教えてまわっている。 きっかけは、突然だ。大人と同じで、子どもの世界も何がきっかけで変わるか、わからない。わかっているのは、ユウジ君はいい方向に変わったということだ。 ユウジ君の辞書は、KBCに来るたびに、赤ペンで線が引かれたページが増えていっている。
新しい夢中。
2年生のマミちゃんは、一人で静かに読書をすることが大好き。読書中は話しかけても「ふ~ん」と返事もつれないほど夢中だ。KBCでは、毎年冬休みにドッヂビー大会が開催される。秋になると、練習を始めるのだが、その練習にもマミちゃんはイヤイヤ参加。やるからには、楽しんでほしいし、スポーツを少しでも好きになってくれればと思い、ある日、「ドッヂビーやろう」と半ば強引に誘ってみた。「ピザを作るように投げて!」「サンドイッチを作るようにキャッチして!」とにかく遊び感覚で楽しめるように努め、一緒に練習をした。 その翌日。マミちゃんが自ら、「ドッヂビーやりたい」と言ってきた!しかも、マミちゃんがやりだしたことで、ほかの子どもたちにも火が付き、チームがまとまってきたのだ。残念ながら、大会では、僕らのチームは優勝できなかったが、MVP賞になんと、マミちゃんが選ばれたのだ。以来、静かに読書をしていたマミちゃんはみんなと元気に遊ぶようになり、昨年までは参加を拒否していた登山やスキーにも挑戦した。 今日も「ドッヂビーやろうよ!」と僕を誘ってくれる。読書、ドッヂビー、そして次の夢中は?…これからもいろんなことに挑戦していってほしいと思っている。
店長の人を見る日。
いつもやんちゃな4年生のトウマ君。ボール遊びの時も中心になって仕切るタイプ。下級生からも慕われているけれど、時々、わがままを通し過ぎるのが玉にきず。そんなトウマ君が、「KBCタウン」で、店長に立候補した。店長の仕事は、参加する子どもたち全員の役割分担を決めること。わがままなところが目立つ彼が、ほかの子のことを考えられるのかと、心配しながらも、仕事のリストと名簿を渡してみた。 名簿を眺めて、まず最初に「オレは計算が得意だからレジをやる」…ここまでは予想通り。あとは仲の良い子で周りを固めるのだろう…そう思いながら見ていると、「こいつは声が大きいから、宣伝係が向いてる」「高学年の女子には料理を任せよう」「ハル君は声は小さいけど、仕事はちゃんとできそうだから窓口にしようかな」…一人ひとりの性格や長所を言いながら、丁寧に分担表を作り始めるではないか。さらには、「こいつらは仲が良すぎるから、グループを一緒にするとしゃべってばかりで仕事しないんじゃないかな」と、メンバー構成にまで気を配っている。 さりげなく仲間の個性を見抜き、適材適所に役割分担するトウマ君。わがままだった少年は、少しずつ、でも着実にまわりを見れるリーダーに成長している。
照れ屋君の男気。
4年生のヒデ君。照れ屋な分、素直に感情を表現できず、喧嘩もしばしば。下級生の面倒をみることも苦手。さらに、極度の潔癖症という面もある。そんなヒデ君が私を驚かせる行動にでた。 外遊びの時間、みんなでサッカーをしていたヒデ君たち。そんなとき、1年生のヨウスケ君がグランドの水たまりで転んでしまい、全身泥だらけに。一緒にいた子どもたちは、「大丈夫?」と近寄るが、ヒデ君は遠くから見ているだけ。ヨウスケ君は「大丈夫!」と何事もなかったかのように泥だらけのまま、プレイを再開した。 と、ヒデ君がすっと、ヨウスケ君に近寄り、「大丈夫か? ケガは? そんな混だらけじゃ、ケガしていても見えないから洗ってこいよ!」と声をかける…だけではなかった。なんと、俺についてこいとばかりにヨウスケ君の手をつかみ、洗い場へ向かう。5分ほどして、ヨウスケ君はキレイになって、グランドに戻ってきたのだ。 その光景を見守っていた私が「ありがとう」と声をかけると、ヒデ君は「だって、泥だらけで、かわいそうじゃん。ケガはしてなかったから」と、照れくさそうに…。 照れ屋で下級生の面倒をみることが苦手で、普段は潔癖で泥にさわることは絶対にしないヒデ君だけに、その男気がより光った瞬間だった。
優等生のお願い。
大きな声で、あいさつや返事ができて、宿題も毎日自分から取り組み、コーチの手伝いは良くしてくれる、何事にも完璧なレン君。そんな性格がゆえに、ひとにものをお願いしたり、ましてやわがままなど言わない優等生だ。 そんなレン君が、空手を始めた。毎週決まった時間に、空手友だちがKBCまで迎えに来て、必ず大きな声で「行ってきます!」とあいさつして練習へ向かう。私たちも、「気合入れて行って来い!」と毎回送り出していた。そして、夕食前には、「ただいま!」と大きな声で礼儀正しく帰ってくる。 ある日、レン君が「お願いがあるんだけど…」と、声をかけてきた。あのレン君がお願い?何事かと思って聞いてみると、「金曜のキッズミールなんだけど、かつ丼がいいな」。どうやら、週末に空手の試合があるらしい。レン君のお願いは勝利へのげん担ぎだったのだ!もちろん、金曜の献立は、「ソースかつ丼」。みんなで、「フレーッ、フレーッ、レン君!」と応援をしながら食べた。帰り際にもう一度みんなで、「頑張れ!」と声援を送った。みんなからもらったたくさんの声援に、レン君は、とびっきりの笑顔で「うん!」と返事をし て、帰って行った。 みんなの声援とかつ丼が、レン君の力になりますように! 私も星空に精一杯、願った。
ごあいさつ。
お友だちと遊んでいる時はとっても楽しそうに話すのに、人前に立って話すとなると緊張してしまうユウ君。KBCでは帰る際に、みんなにあいさつするのがルールなのだが、何も言えず固まってしまうことが続いていた。お母様も心配の様子で、相談をいただくこともあった。家でも帰りのあいさつの練習しているようだが、本番になるとモジモジしてやはりできないというのが1か月ほど続いていた。 そんなある日、ユウ君が「僕、今日はしっかり、あいさつできるよ」と宣言してきた。これまでも、「今日はできそう」と言うことがあったけど、今日のユウ君は、なんだかいつもと違っていた。やがて、お母様がお迎えに来られた。さあ、帰りのごあいさつの時だ。私が「ユウ君、帰ります!どうぞ!」と言うと、みんなの目がユウ君に集まる。おしゃべりがやみ、一瞬、教室がしーんと静まり返る。ユウ君は大きく息を吸い込んで…「さようならっ!」いままで聞いたことない元気な、大きな声であいさつをしてくれた。これにはお母様もびっくり。そして、ほっとされたように目に涙が。 いままでの練習の成果なのか、まわりのお友だちに感化されたのか、大きな大きな一歩を踏み出したユウ君。私も、ユウ君に負けないくらいの大きな声で言った。 「ユウ君、さようなら。また明日!」
リトルコーチ、誕生。
感情のコントロールが苦手なミサちゃん。お友だちと仲よく遊んでいても、急に怒りだしてしまうことも、しばしばだ。そんな時は私たちキッズコーチがミサちゃんと話をして落ちつきを取り戻すようにしてきた。 ある日、リュウ君がベーゴマをうまく回せず泣きじゃくっていた。「もうペーゴマなんてやりたくない」と叫ぶリュウ君。落ちつくまで待とうと、あえて静観するコーチたち。そこに、リュウ君の元へ駆け寄る女の子の影が。なんと、ミサちゃんだ! 「リュウ君、どうしたの?リュウ君がなんで泣いているのか、ミサに教えて。リュウ君の気持ち、ミサも知りたいの!」と一生懸命、リュウ君に話しかけはじめたのだ。いつもと逆の光景にびっくり顔の私たち。なぜかというと、ミサちゃんの使う『ことば』は、いつも私たちが感情に流されている時のミサちゃんに投げかけていた『ことば』と同じだったのだ。助けたい思いをぐっとこらえ、心の中で応援するコーチたち。 その後、ミサちゃんの説得が功を奏し、リュウ君は再度ベーゴマを回すことにチャレンジし始めた。 私たちに照れくさそうに「今日は少しやさしくなれた気がする」と言う、ミサちゃん。「すごくやさしかったよ。まるでコーチみたいだったよ」と褒める私たち。リトルコーチがニッコリと笑った。
もうひとつの家。
いつも天真爛漫で底なしに明るい1年生のレン君。嫌なことがあっても、喧嘩しても、怪我をしても、絶対泣かない子。お母様に伺うと、いままで家族の前以外では絶対に泣いたことがなく、「本人が泣くのは、気が許せる、素を見せられる相手だけだと思います」と仰っていた。たしかに、わがままや「相手が嫌がることはまったくせず、むしろ我慢しているのかなと思わせるほど。私はレン君に、KBCではもっと素を出して、自分らしく過ごして欲しいと思っていた。 入会から半年が過ぎ、このままずっと我慢してKBCで過ごすのだろうかと心配をしていた矢先のある日。自由遊びの時間、レン君がお友だちと喧嘩を始めたので制止し、双方の言い分を聞いた。すると、いままでは少ししょんぼりするだけだったレン君が、その時は違った。私と話しているうちに、目に涙が溜まってきて、そして声を出さずに静かに大粒の涙をこぼしたのだ。これにはまわりのコーチもびっくり。そして、お母様のお迎えが来た時、私、気持ちが先走ってしまい、「ついに泣いてくれたんです!」なんだか変な言い方になってしまったが、その時の様子をお伝えすると、お母様もとても安心されたようで、お礼の言葉をいただいた。レン君にとって、KBCが『もうひとつの家』になった瞬間だった。
好男子、登場。
KBC入会の前、マサ君のお母さんから「実は保育園では、先生の手を焼かさせてばかりで…こちらでは大丈夫でしょうか」とご相談をお聞きしていた。確かに2年生までのマサ君は自分の思うようにいかないと、すぐにお友だちに手を出してしまう。泣いて暴れるたびに、私たちはマサ君を落ち着かせ、マンツーマンで1時間近く話し合うことがたびたびあった。 その反面、とても寂しがり屋なところがあり、夜遅くまで残っていると甘えてきたり、帰りの送迎では怖くて一人ではマンションの6階まで上がれず、 私に「一緒に来て」とモジモジしたりするか弱さもあった。 ところが、3年生に上がる頃からマサ君が変わってきた。喧嘩もしなくなり、すすんで低学年のお友だちの面倒をみるようになった。「おうちまで一緒に来て」など、もう言わない。4年生になると、KBCのイベントのリーダー役を務めあげ、あの1、2年生のマサ君からは想像できないくらいにしっかり者になって、KBCを卒業していった。 数年後…突然、中学2年生のマサ君がやってきた!背もぐんと伸び敬語で話す好男子が、そこにいた。かつての濃厚な日々が思い出され、目の前のマサ君に私は感激さえ覚えた。 KBCでの月日がマサ君の成長のチカラになれていたら、 こんなにうれしいことはない。
自分で考える。
毎年、夏休みに実施している2泊3日のサマーキャンプ。 私たちは、参加する子どもたちをグループに分け、そのリーダー役を5人の5年生に任せた。5人には一日の終わりに、今日の反省と翌日の行動予定や気をつける点を話し合うミーティングに参加してもらった。 その中のひとりが、ソウ君。人一倍はしゃぐの大好き少年がゆえ、まじめにミーティングにとり組もうとしない。5人は普段から仲が良く、いつもは、「ひとりがふざけると4人も一緒にふざけあってしまうが、キャンプではリーダー役としての責任を自覚し、逆に「まじめにしようよ」とソウ君を注意した。いつもと違う雰囲気に、ソウ君は「コーチが悪い!」と私に八つ当たり…。「わかった、もうソウ君には注意しない。その代わり、ソウ君もまわりのみんなのためにはどう行動したら良いか、自分できちんと考えてみて」と言って、1日目が終わった。 その日からユウジ君は変わり始めた。自主的に宿題をやるようになってきた。それだけではなく、「これって役に立つんだよ」と、ともだちに辞書の使い方を教えてまわっている。 翌日…ソウ君が豹変した。好き嫌いが多いソウ君が朝食を残さずに食べている!低学年の子どもが困っていたら、片付けを手伝ってあげている!いつもは、1日1回は注意されるのに、2日目、3日目とも完璧な行動で、みんなをぐいぐい引っ張っている!ソウ君は自分で考え、行動に移したのだ!子どもは一日で成長する。可能性を信じ、任せてみるのも大切なのだ。
5年分の手紙。
「かずまっちょ(*1)」こと、キッズコーチの僕がKBC雪谷へ配属されたのと同時に入会してきた1年生の一人が、ケン君だ。低学年の頃は毎日、5年生になっても週に1日は必ず通ってくれた。ケン君は今や雪谷のムードメーカー。友だちとのコミュニケーション力も抜群。でも、甘えん坊的な一面も。僕といる時間も多く、事務スペースで一日過ごすこともしばしばだ。しかし、この春、僕が他の施設へ異動することになった。僕のお別れ会…なんだかケン君の態度がそっけない。最後までその調子で帰っていった。イベント終了後、スタッフから手紙を手渡された。 ケン君からの手紙!そこには、ケン君と僕との5年間がつづられていた。『1年生の僕はすごく生意気で… 2年生の時は、カクちゃんがいたから、かずまっちょへは遠慮して… 3年生の時、僕は心も成長しました。かずまっちょは仕事が忙しくなってあまり遊んでくれず… 4年生。来る回数が減り、会える回数も減りました… 5年生。週1回になったけど、甘え続けて、自分でも幼稚だなって…』 と5年の成長の跡が書かれ、最後に 『かずまっちょが好きでした。今まで、ありがとう。』と。 ケン君、僕にとって最高にうれしい「ありがとう」を、ありがとう! 僕もケン君が、だい好きだぞ! *1:子どもたちは、キッズコーチたちを「ニックネーム」で呼びます。
お手本になりたい。
S小学校からは、当時6名の小学生がKBCに通っていた。毎日、徒歩で送迎を行う中で決まって繰り広げられるのが、帰ってくる時の並び方での口論。男子も女子も、お互いに「歩き方が悪い」「そっちが歩くの遅いから帰るのが遅れる」など言い合いが絶えない。そのたび、コーチから「2列でまっすぐ帰ってくるように」と注意をしていたが、なかなか改善されない。 もうすぐ新学期という3月、いきなりS小学校の6名が私のところに集まり、「みんなで帰る時の並び方について話し合いがしたい」と言ってきた。その理由が、「このままじゃ、新しい1年生が入ってきたときにお手本になれないもん!」 子どもたち自ら考えて、話し合いをしたいと言ってきてくれたこともうれしかったが、さらに、上級生になるという責任の意識が芽生えていることに驚いた。話し合いはみんなが納得するまで続き、時間がかかったが、並び方はくじ引きで決めることで決着がついた。 自主的な話し合いを経て、みんなの行動が一転。お迎えに行くとすぐに準備し、手作りのくじを引いて、その通りにさっと並んで帰ってくるようになった。1か月後、4月の新学期にはくじ引き方式はやめることになったが、この6名がバッチリ新1年生のお手本になってくれたことは言うまでもない。
ただいまの不思議。
「ただいま!」子どもたちはそう言って学校からKBCに帰ってくる。そして、KBCから帰るときは「さようなら」である。KBCとは不思議なところだ。子どもたちはKBCに『帰ってきて』その後で家に『帰る』のだ。この不思議は、KBCに通いたての子どもたちを惑わすのに十分な力がある。 1年生の初めに、子どもたちから、 「ただいまー!だなんて変だ。だって家じゃないもん。」と必ず言われる。 僕はこの言葉を聞くたびに、静かにこう返す。 「その通り、ここは確かに君の家じゃない。でも君は学校が終わると、ここにいる仲間のもとに帰ってくるだろう? だから、挨拶は『ただいま』でいいんだ。KBCは君たちが仲間のところに帰ってくるところなんだよ。」 そう言うと大抵、ああ、そうかと納得顔になって「ただいま」と言ってくれるようになる。 でも、「ただいま」といってもらう理由はもう1つあると僕は考えている。それは、「KBCが子どもたちにとって仲間のもとに帰ってきて、素の自分にかえることができるように」と思っているからだ。 子どもたちは僕のそんな思いを知ってか知らずか、今日も楽しげに帰ってくる。今日もそんな子どもたちを見て、僕は大きい声で迎える。 「おかえり!」
ヘルプ・ミイ!
KBCαには本の世界を深掘りし、表現力や読解力の向上をめざす、「子どもライブラリー」という講座がある。小学1年生対象の講座で、『本の主人公の心を想像しよう』をテーマにして、感情を表す『気持ちワード』をみんなで挙げていった。 「うれしい」「かなしい」「きもちいい」…など、積極的に手を挙げて答えてくれる子どもたち。そんな中、レン君が「気持ちワードの最後には全部『い』 がついてる!」と気づき、みんな、大盛り上がり! 形容詞を説明することが今日の勉強会の狙いではなかったが、子どもにとっては世紀的な大発見。「気持ちを表す言葉は『い』がつくことが多いのかもしれないね」と話すと、そこから『い』がつく気持ちワード探しに、みんなが奮闘し始めた。 するとタッちゃんがハッとひらめき、目をキラキラさせて、ひと言。 「じゃあ、“ヘルプ・ミー”も気持ちワードだ!」 ヘルプ・ミー、ヘルプ・ミィー、ヘルプ・ミ『イ』…確かに『い』だと、子どもとコーチみんなで大爆笑! 今回のように子どもたちが自ら気づき、自然に学んでいく場面に遭遇すると、あらためて子どもたちの可能性や成長を実感し、うれしくなってくる。やっぱり、子どもって、凄い!
イマージョンカフェ。
KBC∞では、外人講師と自然なコミュニケーションを図れるように、毎日、先生と生徒という立ち位置を取り払って、一緒にふざけたり、工作をしたり、ゲームをする時間がある。それが、『イマージョンカフェ』だ。 ある日、1年生のアオイちゃんに「一緒にイマージョンカフェに行こうよ」と声をかけてみた。アオイちゃんは、英会話の講座ではうつむきがちで発言も消極的。英語でのコミュニケーションに少しでも苦手意識がなくなればと声をかけた。 イマージョンカフェが始まり、講師と子どもたちで工作を始めたが、その時だ。何気ない会話の中で講師が口にした「DOLPHIN」という単語に、「ドルフィン?…私、知ってる!」。それまでこわばっていたアオイちゃんが急に「ドルフィン」に反応を示したのだ。すかさず、講師が機転を利かせて「どんな動物が一番好きなの?」と英語でゆっくりと尋ねると、「RACCOON(タヌキ)!」と即答。講師はすぐさま「工作をやめて、好きな動物がすんでいる家の絵を描こうよ!」とテーマを切り替えた。 「RACCOON HOUSE(タヌキの家)を描く!」 さっきまでと打って変わり、張り切るアオイちゃん。子どもたちのちょっとした変化を見逃さず、興味や自信を引き出していくコーチングを、僕が学んだイマージョンカフェだった。
ミナちゃんの熱意。
この夏、KBCαのコミュニケーション講座の一環で、「お父さんお母さんへのお願い」をテーマにした発表会を開催した。 「○○を買ってほしい」や「ペットを飼わせてほしい」というお願いをする子どもが多かった中、2年生のミナちゃんのお願いは「KBCαのサマーキャンプに行かせてほしい!」だった。 今年のサマーキャンプは、お盆の時期。ミナちゃんのお母様からは「実家に帰省するので」という理由で不参加と聞いていた私は、違うテーマに変えるよう提案した。しかし、普段は優しい性格で遠慮がちなミナちゃんが、珍しく、絶対に変えないと強く主張してくる。根気負けした私は、ミナちゃんの気持ちがお母様に伝わることを願いながら、一緒に原稿を考えた。 発表会の模様はDVDにして、翌週、ご家庭にお渡しする予定だった…が、 翌週まで待てないミナちゃんは、なんとその夜、自宅でお母様に発表会を行ったのだ。サマーキャンプに行きたい理由をきちんと説明し、参加するメリットなどを切々と訴え…翌日、お母様が、私にこう言われた。 「娘の熱意に負けました。今年はサマーキャンプに参加させます」と。全力で自分の気持ちを伝えたミナちゃん。その熱意がお母様に届いたのだ。思わずガッツポーズする私に、お母様も微笑んでくれた。
ネクスト、チェス、プリース!
KBC∞に毎日来ている3年生のリク君。ここに通い始めるまでは英語を学んだことはなかった。 KBC∞では、週に2回、英語の講座がある。リク君はわからないながらも、一生懸命、講師の言っていることを理解しようといつも前向き。何度も間違えながらも、徐々に英語力を伸ばしていった。 そして、迎えた夏休み。長期休暇でしばらく英語に接しない日々が続くことになる。「身につき始めた英語習慣、だいじょうぶかな?」と心配していた「矢先、リク君のお母様から僕宛にメールが届いたのだ。 「旅行中に、リクがホテルのフロントでチェスを借りようとしたら、ほかの旅行者の方が使っていらして。しかも、そのご家族が外国人だったのです。1日目はあきらめたのですが、次の日も同じご家族が使っており、私たちは『しかたないね』とあきらめたのですが、リクが『おれが借りてくるよ』と一人でその家族のところへ駆け寄り、チェスを借りてきたのです。驚いて、『なんて言ったの?』と聞いたら、 『“Next, Chess, Please!"(次、チェス、貸して!)だよ』と。」 僕は英語力より何より外国人にも臆することなく、コミュニケーションを図ろうとする積極性がうれしくて、思わずメールの画面に向かって叫んでいた。「“Riku, Fantastic!"(リク君、いいぞ!)」
新リーダー、誕生。
集団行動が苦手なヒロ君。自分のやりたいことを優先させてしまい、キッズコーチたちにしばしば注意されることも。そんなヒロ君も3年生になり、KBCの中ではお兄さん的な存在になった。 そこで、私は夏休みのお出かけイベント『水族館に行こう』で、少し不安はあったものの、「ヒロ君だから任せるんだよ。よろしくね!」とひと言伝えて、班行動の『リーダー』に任命した。 イベント当日。会場に着き、班行動を始める前に「ここから先、どこを見学するか、どこで遊ぶかは、リーダーに任せます。リーダーはいつもみんなが一緒にいるかを確認してください。」とお願いをした。 「任せます」と言っておきながらヒロ君が心配だった私は、ヒロ君の班の後ろから常に様子をうかがい、いつでもサポートできるようにした。 すると、聞こえてきたのは「集まって~」というヒロ君の声。やがて、「マッキー、ウッシー、マーチン、ハル~…」としっかりと班のメンバー点呼をしているのだ。そして、「あのさぁ…」とひろ君がみんなに話始めた。「次、ここに行きたいと思ってるんだけど。みんなはどう思う?」 なんと、あのヒロ君がみんなの意見を聞いている!そんなヒロ君の成長に、私の不安は一気に消えていった。みんなを引っ張っていける、新リーダーがいま、誕生した。